【警視庁】「少年相談」の窓口から

「少年相談」の窓口から

警視庁では、20歳未満の子どもに対する様々な問題や悩み事についての相談を受け付けており、令和6年中は約6700件の相談を受理しました。ここでは最近の少年相談から見た子どもたちの問題について紹介します。なお紹介する事例は架空のモデルケースです。

「闇バイト」(犯罪) に利用される子どもたち

昨今、匿名・流動型犯罪グループによる強盗や特殊詐欺といった、いわゆる「闇バイト」と呼ばれる犯罪が社会的な問題となっています。その中には、子どもたちが悪意ある大人に利用され、犯罪に加担させられる事案も発生しています。

(1)高校2年生のA君は、遊ぶ金が欲しいと思い、割の良いアルバイトを探していました。SNSで「高額報酬」、「即日現金」といったキーワードを検索したところ、銀行口座を開設するだけだというアルバイトを見つけ、これなら簡単に稼ぐことはできると思い応募しました。

それと、すぐ相手から連絡があり、「仕事の登録に必要なので、身分証明書の写真を送ってください」と言われ、A君は疑うこともなく、言われた通りにしました。

その後、A君は複数の銀行口座を開設して、相手に渡し、その報酬として数万円を受け取りました。

しかし、A君は、「これは犯罪なのではないか」と不安になり、相手に「もう辞めたい」と伝えたところ、「今更辞めることはできない。家族がどうなっても知らないぞ」と脅され、さらに銀行口座を開設させられてしまいました。

このままでは、家族にまで被害が及んでしまうと怖くなったA君は、親にこれまでのことを正直に打ち明け警察に保護を求めることになりました。

  • 「闇バイト」として行われる犯罪行為の例としては、強盗や特殊詐欺、実行役のみならず、犯罪で利用される銀行口座の開設やスマホの契約をさせられたり、書類、運搬の仕事と称して、実際には犯罪で得た現金を運ばされたりすることなどがあります。

子どもたちは金欲しさから、安易な気持ちで「闇バイト」に関わってしまいますが、1度でも関わってしまうと抜け出す事は不可能です。使い捨ての下端として利用され、逮捕されるまで何度も犯罪行為をやらされてしまいます。

このような犯罪に巻き込まれないためには、日ごろからご家族で「闇バイト」は犯罪であると言うことを徹底してもらいたいのです。

そして、万が一、子どもが「闇バイト」に巻き込まれそうになったら、すぐに警察に相談してください。

性的な被害に巻き込まれる子どもたち

スマホやタブレット端末の普及に伴い、子どもたちの世代でもインターネット上でのトラブルが多くなっています。ここでは子どもの性的な画像の問題について触れてみます。

(2)小学校6年生のBさんは買ってもらったばかりのスマホに夢中になっています。動画やSNSを見たり、友達とメッセージのやりとりをしたりして楽しんでいましたが、親に内緒でオンラインゲームもやるようになりました。

しばらくして、Bさんはゲームで知り合った成人男性とメッセージのやりとりをするようになりました。初めはゲームの攻略法などの話をしていましたが、次第に学校生活や友人関係の悩みなど個人的な相談をするようになりました。相手の男は、Bさんの話を熱心に聞き、優しくアドバイスをしてくれたので、Bさんは相手のことを信頼し、次第に特別な存在だと思うようになってきました。

ある時、相手の男性から「誰にも見せないから、裸の画像を送って欲しい」と言われました。Bさんは戸惑いましたが、相手から嫌われたくないと思い言われるがまま自分の裸の写真を送ってしまいました。

  • Bさんの事例で紹介したものは「自画撮り被害」と呼ばれるものです。「自画撮り被害」とは、子どもが自分の性的な写真を撮影し、それを他者に送ってしまうことです。自画撮り被害の典型例としては、最初は優しく接して、信頼させた上で、性的な画像を要求してくる「グルーミング」と呼ばれる手口や、インターネット・ SNS上で子どもの友人や知り合いになりすまし、理由をつけて、性的な画像を要求してくる手口、個人情報を探すと脅 して性的な画像を要求してくる手口などがあります。

また、最近では、実在の女の子の顔写真を使い、生成AIを悪用して、本物と見分けのつかない性的な画像を作り上げてしまうと言う事案の発生も確認されています。

スマホなどが、低年齢の子どもたちにも普及していくにつれて、最近では中高生ばかりでなく、小学生でも被害に合うケースが出てきています。子どもにスマホなどを持たせる際には、保護者が使い方を指導したり、子どもと一緒にルールを決めるなど、一定の管理を行うことが大切です。

仲間を探し求め繁華街に集まる子どもたち

新宿歌舞伎町の通称「トー横」と呼ばれる地区や全国各地の繁華街に、子どもたちが集まり、集団で飲酒や喫煙のほか、オーバードーズ(薬品の過剰摂取)を行っている状況が確認されています。その中には家出してきた子どもも少なくありません。また、こうした場所では、子どもたちが窃盗や暴行などの事件を起こしたり、あるいは福祉犯罪の被害(注1)に会うといった事例も発生しています。

(注1)福祉犯罪の被害とは

少年の福祉を害する犯罪により被害が及ぶ状況のことです。主な被害としては、児童買春、児童ポルノ、性的な暴力、暴力団との関わり、インターネットを利用した犯罪などが挙げられます。
福祉犯罪は、少年の心身に深刻な影響を与え、健全な成長を阻害する恐れがあります.

【具体的な被害の例】:
・児童買春:未成年者を金銭で買い、性的行為を行う行為.
・児童ポルノ:未成年者を撮影した、または未成年者を対象としたわいせつな物を制作・流通させる行為.
・性的な暴力:未成年者に対する強制性交、わいせつな行為など.
・暴力団との関わり:暴力団員またはその周辺者による少年の誘拐、暴力、脅迫など.
・インターネットを利用した犯罪:出会い系サイトやSNSなどを利用した児童買春、誘拐、いじめなど.

(3)中学2年生のC子さんは幼い頃から落ち着きがなく、他人の気持ちを理解するのが難しいといった特性を持っていました。学校では授業に集中することが難しく、勉強についていくことができなくなりました。また、対人関係ではトラブルが絶えず発生し気を許せる友達はできませんでした。

家庭でも学校でも叱られ続ける辛い毎日を送り、Cさんは「自分は何もできない」と自信や居場所を失っていきました。そんな時、繁華街に集まって楽しそうにしている同世代の子どもたちの動画をSNSで見つけ、そこに自分の居場所があるかもしれないと考えるようになりました。

ある時、些細なことで親子喧嘩になり、Cさんはこれまでの不満の蓄積から気持ちが爆発してしまい、何も言わずに家を飛び出し、トー横へ行ってしまいました。

そして、そのままトー横で知り合った年上の仲間たちと一緒に過ごすようになりました。お金が必要になれば、パパ活(援助交際)を行い、心や体が辛くなったときには、気持ちが紛れるようと言って進められたオーバードーズを行うようになりました。

その他にも、財布やスマホを盗まれたり、危険な目にあったりもしましたが、それでもCさんは家や学校へ戻ろうとはしませんでした。

  • トー横に集まる子どもたちに実際に話を聞いてみると、Cさんのように家庭や学校などでうまくいかず、居場所を探してやってくる子が多いようです。トー横には同じような境遇の仲間がいて、受け入れられたような気持ちになるそうです。

しかし、実際のトー横は楽しいことばかりの場所ではありません。そこに集まってきた子どもたちを利用してやろうと、悪意を持った大人から常に狙われている場所でもあります。

警視庁では、犯罪の取り締まりや不良行為の補導活動を行うとともに、子どもを被害から守るための保護も行っています。
また、トー横にやってくる子どもたちは、もともと生きづらさを抱えていたり、辛いことをたくさん経験している子、複雑な家庭環境を背景に持っている子が多いので、本質的な問題の解決や心理的ケアのために、心理職員による継続的なカウンセリングも実施しています。
このようにして、警視庁では、関係機関とともに連携を図りながら、子どもたちを守るための包括的な対策を行っています。

※「家庭と防犯」2025/5月号より引用。